2022年をどのように過ごしていきますか2022年01月01日 13時45分45秒

みなさん、1月1日の朝をどのように迎えられましたか。
私は、特別な朝というわけでもなく、朝から研修テキスト、タイムテーブルなど資料の作成でモニター画面に向き合っています。昨年12月中旬に長年酷使してきたMacが動かなくなり、予備機(これも古い機種です)も動作が不安定となったため、MacbookProにモニターなどをつないでしのいでいます。春に新型が発表される予定なので、それまで待たなければと思っていますが、無事に予定どおり発売されればよいのですが。

ところで、みなさんは「ナッジ理論」を知っていますか。
20年以上前から「ナッジ(そっと後押しする)」ということばは登場しているのですが、14年前にシカゴ大学の行動経済学者リチャード・セイラーと法学者キャス・サンスティーンの二人の学者によって広められた(著書『Nudge: Improving Decisions About Health, Wealth, and Happiness』)ことから、政策に行動経済学の視点をとりいれた現実的な手法として欧米の政治家や研究者の間で広まってきました。「民主主義」「自己決定」の原則を損なわずに個人または集団の意思決定や行動に影響を与えると大きな影響を与えています。
「ナッジ」とは、セイラーとサンスティーンの定義によると、「選択を禁じることも、経済的なインセンティブを大きく変えることもなく、人々の行動を予測可能な形で変える選択アーキテクチャーのあらゆる要素」(2008)となります。簡単なことばにすると、「肘でつつく」「背中を押す」という単語で、人々を強要するのではなく自然に「良い方向」へ誘導し、自然な形で行動変容を促すようにするという意味です。
そうすると、「その気にさせる」ための仕掛けや働きかけが重要な意味をもってくるということになるのですが、あくまでも「自律」「自己決定」が重要な意味をもっているのです。
日本でも行動経済学分野で少しずつ浸透してきていますし、昨年3月には首相官邸が政策アプローチにデータを利活用するとして積極的に乗り出していますし、経済産業省や環境省も力を入れています。日本人研究者の中でも「ナッジ」について語る人も増えていて、医療分野でも「ナッジ理論」を積極的に採り入れようとしている動きもあります。

その中にあって、昨年秋に夭逝された那須耕介教授(京都大学 法学博士)の取り組みはひときわ大きく、私たちに大きな示唆を与えてくれます。那須教授は法哲学分野だけでなく、多くの分野に目を向け、とりわけ、市民が市民であるためには何をしていけばよいのかを示唆し、実行され、教育者としても優れた人でした。「自由」について、あるいは社会について論考をすすめられ、『熟議が壊れるとき』(サンスティーン)などの翻訳や多くの人との議論をとおして、「リバタリアン・パターナリズム」について問題提起されています。強権性が薄く感じられ、一見するとスマートに見える「ナッジ」は、政策を誘導しようとする人たちや新自由主義から福祉国家をとらえ直そうとする人たちにとって、大きな意味をもっているようです。日本社会に横たわる同調圧力などではなく、自律性のある行動変容に向かうようにすることができると期待されていますが、諸刃の剣でもあるようです。

2022年の日本社会、とりわけ政治や政策の動向を考える上でも、「ナッジ」は鍵となるのではないでしょうか。もちろん「ナッジ」が「万能」ということではありませんし、拒絶的に扱われるということでもありませんが、この社会で、私たちはものごとについて「自ら選択」しているかということを考えることが必要でしょう。


さて、今月の研究会は2022年1月15日(土)です。
今後、次の日程で開催予定していますが、情況により中止(休会)することがありますので、直前の連絡も含めて、確認してください。
なお、前号で9月予定が9日(土)になっていましたが、3日(土)の誤りです。
また、会場使用にあたっての注意事項(以前に記載しています)も遵守していただきます。
不明なことがあれば、LINEかE-mailか、このブログのコメント欄(原則、コメントについては一般公開しません)から連絡してください。

<2022年1月研究会>
日時: 1月15日(土)13:30〜16:30
会場: 名古屋国際センター 第2研修室(3階)
<2022年2月研究会>
日時: 2月19日(土)13:30〜16:30
会場: 名古屋国際センター 第2研修室(3階)
<2022年3月研究会>
日時: 3月19日(土)13:30〜16:30
会場: 名古屋国際センター 第2研修室(3階)
<2022年4月研究会>
日時: 4月23日(土)13:30〜16:30
会場: 名古屋国際センター 第2研修室(3階)
<2022年5月研究会>
日時: 5月21日(土)13:30〜16:30
会場: 名古屋国際センター 第2研修室(3階)
<2022年6月研究会>
日時: 6月25日(土)13:30〜16:30
会場: 名古屋国際センター 第3研修室(4階)
<2022年7月研究会>
日時: 7月23日(土)13:30〜16:30
会場: 名古屋国際センター 第2研修室(3階)
<2022年9月研究会>
日時: 9月3日(土)13:30〜16:30
会場: 名古屋国際センター 第2研修室(3階)

人が行動決定すること2022年01月25日 22時31分07秒

1月の研究会は「ナッジ理論」について要点を話しましたが、考えれば考えるほど、却ってすっきりしなくなってしまうかも知れません。
「ナッジ」は「民主主義」「自己決定」の原則を損なわずに個人または集団の意思決定や行動に影響を与えると大きな影響を与えるといわれているのですが、誘導される「良い方向」とはそもそも何なのか、どういう状態を指すのか、誰にとっての「よい方向」なのかなど、考えなければならないと思います。気がついたら、取り返しのつかないことになってしまっていると、大切なものを失ってしまうかも知れません。

人は判断し、行動するにあたっては、何かから常に何らかの影響を受けているといわれます。判断にあたっての基準は、その人のそれまでの人生で受けてきた情報(影響)によって構成されているし、結果としての行動によって生じる影響は自己に対しても他者に対しても(社会を含む)あるのですから、その相互作用を否定することはできません。

しかし、富の分配・再分配や消費行動などにあてはめたとき、それはどのような意味をもつことになるのでしょうか。一時の感情の赴くままに「選択」してしまったら、それをオプトアウトできないとするならば、ある意味「専制」となってしまわないでしょうか。
哲学者のイマヌエル・カントは、「武力無き法と自由=無政府状態」「自由なき法と武力=専制」「自由と法なき武力=野蛮」「自由と法のある武力=共和制」と国家の統治状態を4つに分類しました。
「情報化社会」とはどのような社会なのでしょうか。資本主義社会は一部の者が富を独占する社会でもありますが、一部の者が情報を独占することは富の独占以上に危険な側面をはらんでいます。

「自立・自律と自己決定」は「権利」の重要な柱といわれますが、私たちは本当に「自己決定」できる社会に暮らしているのでしょうか。決定とは選択できることでもあり、選択できない中での決定は自律といえるのだろうかと考えると、方法論としてのナッジは現代社会を生きていくうえで生みだされた知恵なのかも知れません。

ロールズの「正義論」は現代社会を考える上で重要な視点を示しています。ロールズがベンサムやミルの功利主義に対して、民主主義を支える価値判断として「正義」の概念を示し、社会契約説を復興させ、第二次世界大戦後の社会を牽引する理論を示しました。原爆投下後の広島の惨状をアメリカ軍兵士として目の当たりにし、哲学者として「自由とは何か」を哲学してきました。
サンデルによって批判されますが、現代社会において「自由とは何か」「正義とは何か」を考え、社会(政治、経済など)をとおして民主主義平和論などを論じてきました。
サンデルの「共同体主義」や「共通善」はとても重要な理論ですが、それを理解するためにもロールズの正義論を理解することは重用と思います。
また、行動経済学の「ナッジ理論」が現代社会を危険な方向に導いていくのか、それとも成熟した方法論として人々の「幸福」をもたらすものにしていくのか思惟を深めるうえでも、ロールズ、それよりはるか以前のカントなどの考えに触れることは大切と思っています。
しかし、それらを知り、理解するには少々骨が折れるので、身近なところ(SNSなどを含むメディアをとおしての情報など)から「ナッジ理論」などについてちょっと考えてみませんか。

ところで、昨年、そして1月の研究会でもお話ししましたが、オンラインで研究会を開催できるようにもしたいと思っていますので、希望する方は個人メールアドレスを登録してください。(コメント欄に記入していただければ処理します)実施する場合は、メールでオンライン(現在はZoomミーティングを予定しています)開催通知をします。

また、希望者がいれば「読書会」(歴史、哲学、宗教、文学、民俗学、音楽史、美術史など)も行いたいと思っています。

さて、今月の研究会の開催予定日は2022年2月19日(土)です。
今後、次の日程で開催予定していますが、情況により中止(休会)することがありますので、直前の連絡も含めて、確認してください。
また、会場使用にあたっての注意事項(以前に記載しています)も遵守していただきます。
不明なことがあれば、LINEかE-mailか、このブログのコメント欄(原則、コメントについては一般公開しません)から連絡してください。

<2022年2月研究会>
日時: 2月19日(土)13:30〜16:30
会場: 名古屋国際センター 第2研修室(3階)
<2022年3月研究会>
日時: 3月19日(土)13:30〜16:30
会場: 名古屋国際センター 第2研修室(3階)
<2022年4月研究会>
日時: 4月23日(土)13:30〜16:30
会場: 名古屋国際センター 第2研修室(3階)
<2022年5月研究会>
日時: 5月21日(土)13:30〜16:30
会場: 名古屋国際センター 第2研修室(3階)
<2022年6月研究会>
日時: 6月25日(土)13:30〜16:30
会場: 名古屋国際センター 第3研修室(4階)
<2022年7月研究会>
日時: 7月23日(土)13:30〜16:30
会場: 名古屋国際センター 第2研修室(3階)
<2022年9月研究会>
日時: 9月3日(土)13:30〜16:30
会場: 名古屋国際センター 第2研修室(3階)